FMトランスミッタの発振源を検討する。
FMトランスミッタに必要な発振器の性能を考えてみました。数式的に‥非常にアカデミックです(笑)
まず求めるのは必要とするSSBノイズ特性、次に発振回路のシミュレート‥‥さて、そこまで到達できるか?
○まず、FMノイズを模倣してみる
たとえば0〜15KHzまで均一のノイズでFM変調したモノラル発振器の
高周波スペクトラムを計算してみます。音声のS/Nは90dBとしてみます。
15KHzの帯域でS/N比90dBなので 信号Sが1(Vrms)あるとすると、ノイズNの総和は
1Hzあたりのエネルギーは
これを↓の式に放り込むと周波数特性が求まります。
sinの中にsinが入っているとそのまま積分できないのでベッセル級数展開すると
mfは俗に変調指数と呼ばれているヤツで↓の式で表されます。fnはノイズの周波数で67500はFMの100%変調時の周波数偏移(Hz)です。
ここでで問題が‥上記の計算は普通に考えるとムリ無理。しぐま-∞から∞‥って事は
キャリアであるを中心に等間隔でノイズのスペクトラム
が無限に林立(笑)する事を意味します。
‥ここでインチキ(笑)をします。ノイズは非常に小さいので上記式は↓で表されます。つまりK=1だけ残して
あとはすごく小さい値になるので無視(笑)
これを一般に微小角近似といいます。‥多分
そして元の積分の式に代入します‥
ここで2度目のインチキ(笑)。知りたいのはキャリアに対するノイズの大きさ
なので積分する必要は無いです やったー(笑)
肝心のキャリアに対するノイズの電圧は↓です。ここまで引っ張っておいて結果はすごいシンプル。まぁ世の中そんなもんです。
1Hz当りのエネルギーを変調度に放り込んで、さらに上の式に放り込むと 例えばキャリアから10KHz離れた周波数のノイズ量は
と求まります。あれ? 思ったよりノイズ量が多いような=条件が緩いような‥?
ちなみにステレオになるとモノラル比でS/Nは20dB程度悪化します。 なのでステレオ時にS/N90dB出すには
キャリアから10KHz離れた場所のノイズは-141dBc/√Hz必要です。
あと忘れていたOrz プリエンファシスの効果があるのでもうちょっとゆるくなります。
よく見慣れたSSB雑音のグラフ(レインボーカラー笑)にすると↓になります。
プリエンファシスも考慮すると? ↓になります。
ついでなので、プリエンファシスの効果も計算してみます。
ここから下の計算は殆どがエネルギーの次元 つまり電圧は2乗で デシベルは10×log(X)なので注意
まずはAMから‥改善する前のノイズの総和を求めます。ノイズは周波数関係なく均等にあるとすると(ホワイトノイズ)
を積分すると求まります。
計算すると
プリエンファシスにより、ノイズが減った後の総和は↓の式で表せます。
ここで はプリエンファシスの利得の式を2乗してエネルギーの比となるように
した物です
さて‥ここからが大変だ(笑) 置換積分をして答えを出します。まず
とおくと 上の式は
に変形できます。なので先のと合体させます
その前にωで積分していたのをθに変更したので積分区間を変更すると
になるので
と求まります。
プリエンファシス前と後で比較すると
と求まります。5.4dBって あんまり意味ないかも
FMの場合も求めてみます。FMの場合には三角雑音と呼ばれる周波数に比例して雑音電圧が上昇する現象が
あります。AMと同じようにプリエンファシス前の値を計算すると
10の12乗って‥‥なんかすごく異常に大きな値が‥ 先行き不安だ(笑)
プリエンファシスにより、ノイズが減った後の総和はAMと同じように置換積分をして答えを出すと
それでも10dB‥‥AMよりノイズが減るのは、ノイズの多い高域を狙ってレベルが減るようなフィルタを掛けているからです。
ほら、私生活でも金が無くなったら出費のデカい物から削ると効果が大きいでしょorz それと同じです?
今だったらドルビーとかもっと良いノイズリダクションもあるでしょう。このプリエンファシスのせいで送信時に
高域のリミッターが掛けにくいので、いっその事プリエンファシスとか止めてくれたほうが楽なんだけど、もうムリか⊂⌒~⊃。Д。)⊃
上記のキタナイ計算ではなくエレガントかつスマートな(笑)導出がFM-Misty様のホームページ上に記載されています。
なにかの間違いで本気で計算する事があるなら、そちらを参考にしたほうが良いと思います。
モノラルの理論値も求まったことだし、メインテーマである(笑)ステレオにいってみましょう。
まずはノイズの総和を求める‥のですが、ここで????状態に。 いやまじめに解いたので
とりあえず結果だけ列挙します
最初は0〜15KHz(L+R)と23〜53KHz(L-R)を混ぜるプランから。38KHzで乗算してステレオ復調する方式に相当します。
最後の行では0〜15KHz(L+R)のみモノラル時に比べてどの程度大きいかを計算しています。これが?の原因。
10dBしか大きくなっていない? いゃ どこかでステレオはモノラルに対して20dBノイズが多いと聞いたことがあるので
ここで20dB位大きくないと‥⊂⌒~⊃。Д。)⊃
それで無い知恵を絞って、スイッチング方式の復調方式についても計算してみました。
大多数のFM受信機はスイッチング方式を使っています。この方式では99KHz〜114KHzと175KHz〜205KHzの音声も復調してしまいます。
なので、ノイズの総和も増えてモノラル比で13.9dB まだ足らない(笑) 目標は20dB! さて‥ノイズをかき集めて20dBまで頑張るか(笑)
今回205KHzで切りましたが、IFフィルタにカットオフ±200KHzのセラミックフィルターを使っていることを想定しています。
じゃワイドバンドの400KHzの場合‥
まだ16.2dB。 永遠にやってれば20dBいくだろうけど、現実的に400KHz以上の超ワイドバンドフィルターは使われないと思うので
この辺が限界かと思います。
ついでにL-RをSSB方式で復調するという?な事も考えてみました。L-Rの副音声のうちノイズの少ない23〜38KHz部分を使って
ステレオマトリクスを組むという方法です?
少し良くなります。乗算で復調する方法に比べて1.9dBだけ‥アナログでやると90度位相器や乗算器だらけになって1.9dBのメリットは
これらの部品のノイズとか歪とかあるので帳消しになりますが、デジタルでやるならメリットはありそう。
↓はイメージ図です。こんだけめんどくさいことやって2dBじゃ割に合わんか‥
---------------------------------↑から約2日後---------------------------------
なんとなく上の計算が実際と違う理由が分かってきました。ステレオ時とモノラル時でエネルギー(音量)が同じになるように調整しましたが
よく考えると、実際の回路にそんな機構は付いていないという。
なので上の計算式はいろいろと変更になって下記のようになります。
乗算方式の場合
スイッチング方式(±200KHz帯域)の場合
スイッチング方式(±400KHz帯域)の場合
SSB方式の場合
そしてエンファシスを掛けるのですが‥もうヤダ(笑) 積分したくない⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ので
エクセルで100Hz区切りで区分求積法で求めて、エンファシス前のモノラルのノイズの量を基準にしてまとめると↓の表になります。
|
モノラル |
ステレオ |
乗算方式 |
スイッチング方式(帯域±200KHz) |
スイッチング方式(帯域±400KHz) |
SSB方式 |
エンファシスなし |
0 |
16.181 |
20.749 |
22.920 |
14.201 |
エンファシスあり |
-10.1746 |
10.5748 |
15.2760 |
17.4786 |
9.6674 |
ここでエンファシスありの乗算方式とエンファシスありのモノラルの差を求めると20.749dBになります。 やっと世間で言われている
ステレオはモノラルに対して20dB悪いという答えが計算で出てきたよ〜orz
プリエンファシスによる改善の度合いをグラフ(電圧比)にすると↓のようになります。
まずモノラルから‥ モノラルは高周波ほどノイズレベルが高いので良くプリエンファシスが効いています。
次は乗算方式 高周波でもあまりノイズレベルが上がらないので、エンファシスの効果は少なくなります。
スイッチング方式ではさらにエンファシスの効果は少なくなり‥
スイッチング方式で帯域を広げると三角雑音は殆ど影を潜め、もう殆ど真っ平ら(笑)
うぎゃーーーorz 一番ノイズが少ないSSB方式ですが、元々高周波程ノイズが少ないので、エンファシスの効きが最悪。だめだこりゃorz
‥で、いつの間にか復調方式の話になってしまいましたが、結局知りたかったのは発振器に求められるSSB雑音特性
ということで、プリエンファシス/デエンファシスの効果も考慮してグラフ化すると、モノラルの場合
ステレオの場合
となります?。S/N100dBを目指すのは大変だなぁ‥ 上記グラフから読み取ると10KHz離調時のキャリア比レベルを
-142dBc/√Hz以下にしないといけない事が分かります。
しかもこの条件は送信周波数に関係なく、送信機、受信機の局発などすべての発振器に関わってきます。
なのでFMトランスミッタだけでなく、受信機側の局発にもこの特性は求められます。
はぁ、いろいろ計算したけど答えは合っているのだろうか?
それにしてもよく計算した(笑)1年分くらい計算したかも。暫く計算はしたくない(笑)
その他余談
↓の2つの式よく見ると右辺の形が良く似ています。まぁCosとSinという違いはありますが、特に1/2なんちゃら‥というパワーの部分が。
上が微小角近似したFM変調(低変調度FM)で下がAM変調の式です。m=mfとするとパワーが一致します。
ところでAM変調のmって変調度のことです。 つまりFMを変調指数を1で使うと、その変調周波数ではAMとS/Nは同じになる事を意味します。
そして、FMを変調指数1以下で使うという事は、AMよりS/Nで劣る通信をしているという事です。
まぁSNで劣ると言ってもFMの場合、送信効率で勝るC級増幅器が使えますから、パワー(笑)で押し切ってしまいますけど。
それに弱肉強食も効くので、混信に対しては有利だと思います。でも自然界のノイズに対してはorz
少なくとも、FM放送の場合L-Rの差音声のうち53KHz付近は100%変調67.5KHzに対して変調指数が1.274まで下がっているので
AMとほぼ同等のS/Nで通信をしていると言っても間違いはなさそうです。思ったより悪条件だなぁ
それと、↓の公式‥よく教科書で見ますが、FMのS/NはAMに対して3倍×変調指数の2乗で良くなりますよ っていう FMってすげー(笑)
まるでバラ色のなんたら(笑)のような公式ですが、本当?という訳でちょっと考えてみました。
まず、FMのノイズを計算してみます。周波数に比例してノイズが増えるのでエネルギーは2乗して増えます。
そして変調指数1‥たとえばFM放送の場合 変調する音声が75000Hzで100%変調時75000Hzキャリアが周波数変移すると
AMとノイズの量は同じになるので、このとき1となるように積分区間を正規化、つまり75000で割ってしまいます。
まぁmfで割ることになるんですが。
んで、何をするか‥変調指数の逆数まで積分します。
FMモノラルの場合には周波数変移75000Hzに対して音声が15000Hzなので、mfは5になります。
AMも同様に積分しますが、AMの場合周波数によらずノイズは一定なので1を積分します。
さて‥積分した結果を逆数にしてS/Nもどきに変形し AM対FMの式にすると、元の式にぴったり。 まぁそのつもりで計算したので(笑)
何が言いたいか‥というと、最初の3mf〜の式は、0Hz〜?Hzまでのノイズの総和でAMとFMを比較してますよ‥という事です。
なので、L+Rの主音声の場合にはうまく当てはめられるけど、L-Rの副音声のように23〜53KHzとか中途半端な周波数の場合狂いますよ。
あやうくダマされるところだった(笑)
P.S. ステレオ時のノイズは音声周波数に関係なくほぼ一定なので、プリエンファシス/デエンファシスの効果は殆ど無し。
いっそのこと止めちまえ(ゲス顔
----------------------------2016/01/20追記--------------------------
仮に今のFM放送のMPX音声フォーマット(L+RとL-Rを分けて38KHzで平衡変調する方式)のまま電波だけAM変調した場合、どの程度
SNが悪化するか考えて見ます。AMのノイズを周波数に関係なく一定とします。帯域は0〜15KHzの範囲として、計算すると
モノラルの場合
ステレオの場合
となります。同一条件でFMの場合は変調指数に反比例してノイズが減るので、例えばFMモノラルの場合
AM比で22.6dB改善されます。
ステレオの場合
FM変調による改善度合いはたったの6.64dB! え!?
今のFM放送の音の良さはFM変調だから‥というのではなく、ノイズの少ないVHF帯を使用しているから‥というのが大きいと思った次第です。
訂正・変更履歴
2009.07.15 初版
2014.04.06 理論値計算式と結果追加
2015.01.20 FM変調とAM変調のSN差追記
2015.01.25 測定値から分離。理論Onlyにした。
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